重要事項説明書の「農地法」とは?
不動産を借りる際に行われる重要事項説明。そこではさまざまな内容が宅地建物取引士から説明されますが、そのひとつに「農地法」という項目があります。通常の賃貸物件を借りる際にはあまり関係ありませんが、農地や採草放牧地の契約では、必ず理解が必要となる項目です。
今回は、農地法の概要や内容についてご紹介します。農地に興味がある場合は、ぜひ理解しておきましょう。
農地法って何?
農地法とは、農地や採草放牧地の保護や権利関係について規定している法律です。農地とは、耕作目的に供されている土地のことを指します。採草放牧地とは、農地以外で耕作や畜産の事業のための採草、家畜の放牧のための草地のことです。
その土地が農地法の「農地」や「採草放牧地」にあたるかどうかは、現在の土地の利用状況によって判断します。登記簿謄本の登録状況は関係ありません。「農地」や「採草放牧地」に該当すると、売買や賃貸借契約を結ぶ場合は、農地法上の制限が生じます。
「農地」や「採草放牧地」の判定は、一時的な状態によって判断されるものではありません。自宅の家庭菜園のような一時的な農地は、農地法上の制限を受けません。
農地法の目的
農地法の目的は、以下のように設定されています。
農業者の権利を守るとともに農業生産を促進し国民に安定した食料供給を行うため、農地などの売買による権利移動や転用の制限 |
農地は食料自給率に影響を与える重要な土地です。そのため、農地法では以下の2点について制限しています。
- 農地の売買
- 農地の農地以外への転用
農地が気軽に売買されたり、農地以外の土地へ転用されてしまうと、食料自給率が低下する可能性があります。そのため、農地法を制定し、これらの項目について制限を加えているのです。
農地法の歴史
農地法は、戦後「GHQ」により推進された「農地改革」によって制定された法律のひとつです。当時行われた農地改革では、以下のような内容が記載されていたました。
- 地主制の解体
- 自作農業創設のための小作地の開放
- 小作料の引き下げと金納化
- 不在地主の一掃
戦前は、地主が小作人に土地を貸し、小作人は小作料を支払いながら農業を行っていました。しかし、地主は小作料で潤っていきましたが、小作人は貧しい状態が続いていました。そのため、GHQは地主が農地を買い上げ、小作人に安価に払い下げることで、地主制の解体を実現しました。
農地法の「売買の制限」とは?
ここでは、農地法の核である「売買の制限」について見ていきます。農地法3条では、以下のように規定されています。
農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。 |
こちらの内容を簡潔にまとめると、「農地の売買や賃貸借を行う場合は、農業委員会の許可が必要」というものです。農業委員会の許可を得ずに売買や賃貸借を行うと、契約自体が無効とされてしまいます。
ただし、以下の3つのケースについては農地法第3条の制限を受けません。
- 国や都道府県による取得
- 土地収用法による収用
- 相続
農地法の「転用の制限」とは?
こちらでは、農地法の「転用の制限」について見ていきます。農地法4条では、以下のように規定されています。
農地を農地以外のものにする者は、都道府県知事(農地又は採草放牧地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に関する施策の実施状況を考慮して農林水産大臣が指定する市町村(以下「指定市町村」という。)の区域内にあっては、指定市町村の長。以下「都道府県知事等」という。)の許可を受けなければならない。 |
農地の売買を行う場合は農業委員会の許可が必要でしたが、転用の場合には都道府県知事や指定市町村長の許可を受ける必要があります。許可を受けずに農地を転用してしまうと、行政処分を受ける可能性があります。
また、以下の3つのケースについては、農地法第4条の制限を受けません。
- 小規模な農業用施設
- 国や自治体への併用
- 土地収用法に基づく収用
転用と売買を合わせて行う場合の制限
場合によっては、農地の売買と転用を同時に行うケースもあります。その場合、上記とは別の制限を受けることになります。農地法5条では、以下のように規定されています。
農地を農地以外のものにするため又は採草放牧地を採草放牧地以外のもの(農地を除く。次項及び第四項において同じ。)にするため、これらの土地について第三条第一項本文に掲げる権利を設定し、又は移転する場合には、当事者が都道府県知事等の許可を受けなければならない。 |
農地を宅地に転用した土地を購入し、そこに家を建築するようなケースでは、都道府県知事の許可を得る必要があります。市街化区域内にある農地は、農業委員会への届出を行う必要があります。
前述のケースと同様、許可を得ずに売買と転用を行うと、契約が無効になり、行政処分を受ける可能性があります。
また、以下の2つのケースでは、農地法第5条が適用されません。
- 国や都道府県等が一定の施設の用に供するために農地を取得する場合
- 土地収用法に基づいて収用される場合
まとめ
農地法は、農地や採草放牧地の売買、賃貸借、転用を行う際に欠かせない法律です。近年では改正が行われ、個人でも農地を所有できるようになりました。今後農地に興味を持った場合に備えて、ぜひ理解しておきましょう。
重要事項説明については、こちらの記事でもご紹介しています。ぜひ一度ご確認ください。