アパート経営には欠かせない「利回り」の基本知識
「老後2,000万円問題」や、年金の受給年齢の後ろ倒しなど、お金に関する問題が数多く取りざたされるなか、注目を集めているのが「投資」です。株やNISAといったものと同様に、マンションやアパート経営を行う「不動産投資」も人気です。しかし、一定の知識を備えていないと、損をするだけでなく老後の資金を失ってしまうかもしれません。そこで今回は、アパート経営をする際に欠かせない「利回り」に関する基礎知識をご紹介します。
アパート経営に欠かせない「表面利回り」と「実質利回り」
利回りには、いくつかの考え方があり、場面に応じて利用されるものが変化します。そのなかでも、アパート経営に欠かせないのが「表面利回り」と「実質利回り」です。
表面利回りとは、投資効率を表す際に利用される指標のことで、物件情報や普段の会話で「利回り」という言葉が登場した場合は、表面利回りのことを指している可能性が高いです。「表面利回り10%」と記載されている物件は、1年間で投資金額の10%を回収できるという意味になります。表面利回りは、「グロス」と呼ばれることもあります。
一方実質利回りは、表面利回りから諸経費を差し引いたものを指します。コストも含めた実質的な投資効率を算出できるため、実際に不動産投資を行う場合は欠かせないものです。
アパート経営を始める際には、表面利回りと実質利回りを徹底的に理解し、両者を使いこなす必要があります。
表面利回りの計算方法
不動産ポータルサイトで物件を探してみると、表面利回り10%の物件もあれば、20%や30%の物件も珍しくありません。これらの数字は、どのように算出されているのでしょうか。
表面利回りは、以下の計算式で産出されます。
年間の収入については、広告や不動産ポータルサイトに掲載されている家賃をもとに算出しましょう。物件価格は、購入時の物件の価格をそのまま当てはめて構いません。
例えば、物件の購入価格が2,000万円、1年間の家賃収入が100万円としてシミュレーションしてみます。表面利回りは下記のように算出されます。
表面利回りは、物件購入時のコスト等を考慮していないため、現実とは異なる数字になることも少なくありません。物件同士の投資効率を大まかに比較する際に利用するのがベストな選択で、より詳細に物件を調べる場合は、次の実質利回りを活用するのが良いでしょう。
実質利回りの計算方法
前述の通り、実質利回りはコスト等を考慮し、実質的な投資効率を表す際に用いられます。そのため、より効率的に利益を生み出せる物件を探すには、実質利回りに関する知識が必要不可欠です。実質利回りは、以下の計算式で算出されます。
モデルケースとして、物件購入価格700万円、購入経費35万円、1年間の収入が70万円で経費が10万円の場合を考えてみます。実質利益は以下のようになるでしょう。
物件同士を比較するときは表面利回り、購入する物件を決める際は実質利回りを使うと、より効率的に利益につながる物件を探せます。
「想定利回り」に注意
利回りについて一定の知識を得た方に気をつけてほしいのが、「想定利回り」という考え方です。先ほど説明した通り、物件情報や不動産ポータルサイト等に掲載されている利回りのほとんどが「表面利回り」です。しかし、表面利回りのなかでも「想定利回り」に絞って掲載している物件も珍しくありません。
想定利回りとは、表面利回りの計算式のなかで「年間の収入」について、「部屋が満室状態」を想定して算出した利回りのことを指します。計算式は表面利回りと同じですが、常に部屋が埋まっている状態で収入を計算する分、利回りが高くなります。
しかし、「常に満室状態」と考えてアパート経営を行うのは、とても危険です。アパートやマンションの空室率は、立地等に大きく左右されます。今まで入居者が絶えなかった物件が、近隣駅の開発によって一気に廃れてしまったなんて事例が後を絶ちません。アパート経営のプロであっても、一定の空室率を考慮して利回りを計算します。
そのため、常に満室状態であることを前提として産出される想定利回りではなく、一定の空室があることを覚悟した表面利回りや、実質利回りを活用して物件探しを行いましょう。
利回りを見る際の注意点
利回りは、アパート経営を行ううえで欠かせない視点です。物件情報を見る際も、利回りを確認しない方はいません。しかし、利回りを重視するあまり、利回りに振り回されてしまうのも問題です。ここでは、利回りを確認する際の注意点についてご紹介します。
表面利回りが高すぎる物件に気をつける
まず、表面利回りがあまりにも高い物件には注意しましょう。一般的に、表面利回りの適正は5~8%程度といわれています。物件にもよりますが、これを大きく上回るものは、高利回り物件と呼んで良いでしょう。
利回りが高いため、とくに投資初心者の方が飛びつきやすい傾向にありますが、なぜその利回りになるのかしっかりと考える必要があります。
前述のように、その利回りの計算には想定利回りが使われていることが多く、満室を維持できなければその利回りは実現できません。万が一、損益の分岐点を想定利回り通りの数字に設定していると、少し空室が出ただけで経営がうまくいかなくなってしまいます。高すぎる表面利回りを見つけたら、まずはその利回りの根拠を考える必要があるでしょう。
利回りを信用しすぎない
次に大切なことは、利回りをあまり信用しすぎないことです。もちろん、利回りは大切な指標のひとつです、数ある指標のひとつでしかないのも事実です。また、アパート経営は想定通りにいかないことも多く、空室率の増加によって収入が低下したり、コストが思ったよりも必要になったりするケースも珍しくありません。
そのような場合に、あまり利回りばかりを重視してしまうと、実質的な懸念点やデメリットを見逃してしまいます。物件選びのひとつの情報として利回りを使いつつも、実際にアパート経営を行う段階になったら、「利回り通りにはいかない」と割り切ってしまうのも良い手段です。
実質利回りは毎年低下する
最後に押さえておかなければならないのは、実質利回りは毎年低下するという点です。不動産は経年劣化を起こします。購入時には最大限の利益を生み出していた物件でも、数年も経過するとその価値は徐々に下落していきます。幅は小さいものの、毎年価値が低下していると考えて良いでしょう。
先ほどの実質利回りの計算式を見てみると、表面利回りの計算式にはないコスト等が考慮されているのがわかります。つまり、「物件の価値の低下」+「維持管理費等のコストの増大」によって、実質利回りは毎年低下してしまうのです。
アパート経営を行う場合は、いかに実質利回りの低下を小さくするか、そして実質利回りの低下を想定して物件を選ぶことが大切です。
まとめ
アパート経営は一筋縄ではいきません。利回りの知識を備えただけでは十分とはいえず、学び続ける必要があるでしょう。まずは、その第一歩として今回の記事をお役立ていただければ幸いです。