2年前に退去した入居者からの敷金返還請求は対応しなければいけない?
入居者との関係は、最初から最後まで友好関係を築いていきたいところですが、時としてトラブルに発展することも珍しくありません。たとえば、契約の前段階であれば家賃の減額請求、契約途中のクレームなど、十人十色トラブルの内容は異なります。そして、退去後に発生するトラブルの代表が「敷金返還請求」です。今回は、大家さんが理解しておくべき敷金返還請求の基礎知識から、実際のトラブル事例などをご紹介します。
敷金返還請求に関する基礎知識
大家さんのなかには、敷金返還請求に関する知識が不足している方が少なくありません。また、2017年4月14日に可決された「契約や金銭の支払いに関するルールを定めた民法の規定を見直す改正法案」を意識しておらず、知識をアップデートできていない方も多いでしょう。ここでは、敷金返還請求に関する基礎知識をご紹介します。
敷金について
「敷金」については、物件情報などでよく見かけるものの、実はしっかりと定義されていませんでした。法律での明文化もなく、今までは慣習としてやりとりされており、その内容も「初期費用として支払われる家賃1~2か月程度の費用」といったものです。内容があいまいであったためか、敷金に関するトラブルが絶えなかったのも事実です。
しかし、今回の法改正で敷金のルールについて明文化されました。
敷金について、次のような規律を設けるものとする。 (1)賃貸人は、敷金(いかなる名義をもってするかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この7において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。 ア 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。 イ 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。 (2)賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。 |
一見細かいように見えますが、記載してあるのは以下の内容です。
- 敷金の定義
- 敷金は返還しなければならない
- 賃借人が債務を弁済しない場合は返済の必要はない
- 履行されなかった債務の弁済に敷金を充当できる
- ただし、賃借人から充当を請求することはできない
原状回復について
敷金と同様、入居者が退去時に行う原状回復についても規定があいまいで、とくに費用の分担について貸主・借主間でもめるケースも珍しくありませんでした。そこで、原状回復の負担割合について今回の改正で以下のように規定されました。
13 賃貸借終了後の収去義務及び原状回復義務(民法第616条・第598条関係) 民法616条(同法第598条の準用)の規律を次のように改めるものとする。 (1)第34の4(1)及び(2)の規定は、賃貸借について準用する。 (2)賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年劣化を除く。以下この(2)において同じ。)がある場合において、その損傷が賃借人の攻めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。 |
これについても簡単に説明すると、部屋を借りた後に借主の故意・過失で生じた損傷の原状回復は借主負担となります。一方、経年劣化や通常の生活で生じた傷や汚れに関する原状回復は、貸主の負担となります。
ただし、賃貸借契約時の特約で原状回復義務の範囲について明記され、その範囲に合理性があり、貸主が十分認識・予測できる内容であって場合には、その特約が有効になるとした最高裁判例も存在します。
より細かい負担内容については、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に記載されています。不動産経営を始める前に一度確認しておくべきでしょう。
敷金返還請求権の時効について
敷金返還請求権は、法律上の権利である以上、「時効」が存在します。敷金返還請求権の時効は、退去から原則5年です。除斥期間という例外はあるものの、基本5年間と考えて良いでしょう。5年以内に元入居者から請求がない場合は、時効によって消滅します。
ただし、書面等によって請求された場合は、時効期間の進行は中断します。訴訟等に発展する可能性もあるため、返還する敷金がない場合でも、事情をしっかりと説明するなど対応が求められるでしょう。
請求方法について
大家さんの立場からすると、敷金の返還を請求するのではなく、請求される側でしょう。しかし、どのような方法で請求されるのについて理解しておいても損はありません。
敷金返還請求は、法的な措置であるため、内容証明郵便を送るのが一般的です。後の裁判も見据えて請求している方であれば、なおさらでしょう。内容証明郵便でなければ対応しなくて良いわけではありませんが、内容証明郵便を送ってきたということは、一定の法律知識を持っていると考えるべきです。
敷金返還請求に関するトラブル事例
ここでは、国民生活センターに寄せられた、敷金返還請求に関するトラブルの事例をご紹介します。
事例1
転勤のため、賃貸マンションを退去することになった。入居の際に礼金と別に敷金4ヶ月分の56万円を支払った。契約時にそのうちの2ヶ月分は返金されないと説明されていた。 自分ではきれいに使用していたつもりだったが、残り2ヶ月分のうち23万円以上がリフォーム代に充てられると言われた。夫婦2人のみで子供はおらず汚れていないと思う。内訳を出してもらったが、クロス張替部分で納得できない費用もある。 (30代男性 給与生活者) |
本来の使用方法による汚れや傷の原状回復については、貸主の負担で行います。しかし、この考えを理解していない貸主・借主が多いため、上記のようなトラブルにつながります。
事例2
半年で賃貸アパートを退去したら畳と襖の修理代を強引に請求された。汚していないのに修理費用を請求するのはおかしい。返金してほしい。 |
この問題については、畳と襖の交換原因が借主にあるか否かによって解決方法が変わります。借主の故意または過失によって交換しなければならなくなった場合は、借主の費用負担で修繕を行います。借主に故意や過失がない場合は、貸主の費用負担となります。
過去に退去した入居者からの敷金返還請求について
退去時ではなく、過去に退去した元入居者から敷金返還請求をされた場合は、どのように対応すれば良いのでしょうか。
まず、時効が成立しているか否かを考えましょう。退去から5年以上経過しての請求であればその旨を伝えれば足ります。一方、5年以内の請求である場合は、返還すべき敷金の有無、その金額を伝えて真摯に対応する必要があります。
まとめ
近年は、契約時に敷金や礼金をとらないケースも増えていますが、敷金返還請求は大家さんにとって欠かせない知識です。弁護士に依頼するのも有効ですが、自分でも最低限の知識を備えておきましょう。