家賃の値上げを通告された際の対処法
賃貸物件に住んでいる場合、毎月の家賃は固定費として計上していると思いますが、一度住み始めたら家賃はずっと定額だと考えていないでしょうか。ある日突然、大家さんから家賃の値上げを通告されて驚く、なんて話をよく聞きます。
そこで今回は、家賃の値上げは大家さんが自由に行えることなのか、値上げを通告されてしまった場合はどうしようもないのかなどをご紹介します。今後の知識としてぜひ活用ください。
実際の事例
家賃の値上げのみを取り上げても具体性に欠けるため、実際のAさんの事例を挙げて考えてみましょう。
Aさんは2年前にマンションを借りました。間取りは1LDKで、築20年であるものの、駅から5分という利便性もあり、家賃は12万円で共益費1万円でした。そして、2年に1度の契約更新である来月を前に、大家さんからある通知が届きました。
昨年から駅まで大規模開発が行われており、近辺の地価が上昇しています。それに伴い、周辺マンションの家賃も上がっているため、ここのマンションも家賃を値上げしたいと思います。つきましては、次回の契約更新以降家賃を10,000円値上げさせていただきます。 |
これはひとつの事例ですが、不動産バブルなどによって地価が急上昇する可能性は十分にあり、それに伴う物件価格の上昇も起こるでしょう。
借主からすると、「いきなりの家賃の値上げなんてあんまりだ」と思うかもしれません。しかし、周辺物件は同じ間取りでもっと利益が上げられるにもかかわらず、自分の物件だけ値上げできないとなれば、それを不平等に感じる気持ちは分からないでもありません。
家賃の値上げに借主の承諾は必要か?
そもそも、借主のなかには「家賃の値上げは借主の承諾が必要なんじゃないのか?」と思う方もいるかもしれません。ただし、結論から申し上げると、家賃の値上げについては基本的に借主の承諾を得る必要はありません。
賃貸物件の値上げに関しては、借地借家法32条1項に定められています。そこには、家賃を値上げする際の3つの条件が書かれています。
- 租税等の増加によって、土地や建物の価格が上昇し、現在設定している家賃が不相当に安くなってしまった場合
- 経済事情の変動によって現在設定されている家賃が不相当に安くなってしまった場合
- 周辺の類似した間取りの物件と比べて、家賃が不相当に低い場合
大家さんが物件の家賃を値上げする場合、上記の3つの条件のどれかに当てはまる必要はあるものの、借主の承諾を得る必要はありません。つまり、今回のAさんの事例でも、大家さんの判断は決して間違っていないのです。
家賃の値上げが行われるタイミング
家賃の値上げに関する条件は、上記で紹介した3つのみです。つまり、家賃を値上げするタイミングについては特に記載されていません。そのため、大家さんの自由なタイミングで家賃を変更することが可能です。
ただ、多くの大家さんが物件の「更新時」に値上げに関する告知を行います。契約の更新とは、あらかじめ設定された契約期間(2年が一般的)を経過した後、再度契約を継続するか決めるタイミングのことを指します。
更新時は、物件を退去する方も増えるため、そのタイミングで新たな契約として家賃の値上げに関する通知を出すのです。
実際、先ほどのAさんの事例でもあと少しで物件の更新を迎えるタイミングで大家さんからの告知が行われていました。ただ、特に周辺の家賃について調べていなければ、何の事前告知もなく届くため、多くの方が驚くでしょう。
家賃の値上げを通告された時の対処法
家賃の値上げに納得でき、その金額を支払うことで今まで通り住んでいける場合は良いのですが、納得できず、なんとか交渉したいと考える方もいるでしょう。大家さんから見ると、家賃の値上げについて、借主の承諾は必要ないものの、借主の合意がなければ値上げ分を支払うことなく退去されてしまいます。そこに交渉の余地が残されているともいえるでしょう。
そこで、以下では家賃の値上げを通告された時の対処法を、流れに沿って3つご紹介します。
1.住んでいるマンションの固定資産税評価額を調べる
まず、現在住んでいるマンションの固定資産税評価額を調べましょう。固定資産税評価額は、固定資産税や不動産取得税の計算に使われる指標で、例えば固定資産税の場合「固定資産税評価額×1.4%」で計算されます。つまり、固定資産税評価額が上昇した場合は、家賃値上げの根拠となる「固定資産税の増額」につながるため、大家さんの言い分の正当性が担保されます。反対に、固定資産税評価額が家賃の値上げに見合った額増加していなければ、賃料を上げる根拠に乏しいと指摘できるのです。
固定資産税評価額は、毎年度市区町村役場から送られてくる「固定資産税支払通知書」で確認することができます。大家さんが持っているはずのため、開示をお願いしましょう。
2.マンションの賃料が前年と比べて上昇しているのか確認する
次は、実際に現在住んでいるマンションの家賃が前年と比べて上昇傾向にあるのか調べましょう。例えば、同じような間取りにもかかわらず、新規の入居者を募集する場合には、高い賃料を設定しているときは賃料が上昇傾向にあるといえます。
具体的な金額については、調査会社によって1㎡あたりのマンションの賃料の変動について結果が公表されています。それを利用すると良いでしょう。
3.周辺物件の家賃を調査する
最後に、周辺の間取りや築年数の似た物件の家賃について調査を行います。インターネットの物件情報サイトなどで調べられます。
Aさんの事例でも、大家さんは家賃を値上げする理由のひとつとして「周辺物件の家賃の高騰」を挙げていました。その主張が適切なのか調べるのです。
もし周辺物件の家賃がそれほど変わっていない場合、大家さんが値上げした理由は別にあるのかもしれません。例えば、空き部屋が増えたため現在の入居者の負担を増やしたいなどはよくある理由です。
話し合いがうまくまとまらない場合
上記3点の資料がそろい、家賃の値上げに納得がいかない場合、大家さんの直接交渉することになります。そこで「家賃の値上げは行いません」となれば成功ですが、話し合いがうまくいかないケースも珍しくありません。以下では、話し合いがうまくまとまらない場合の対策についてご紹介します。
供託の手続きを取る
家賃交渉について、話し合いが平行線をたどった場合に、「値上げするなら家賃は支払いません」というのは絶対NGの行為です。家賃の値上げについて両者の合意が得られない以上、値上げ分まで支払う必要はありませんが、従前に金額の家賃については借主が支払わなければならないと考えられているからです。
ただ、大家さんに家賃を支払おうとしても、「値上げした家賃でなければ受け取りません」というケースもあります。そんな時は、近くの供託所へ行き、「供託」という手続きを行ってください。そこに従前の金額の家賃を支払えば、家賃を滞納したことにはなりません。
感情的になって家賃を支払わないのがもっとも最悪の対処法だということを覚えておきましょう。
自ら対応するのが難しい場合は専門家に相談
供託の手続きも含めて、自分ひとりで全て対応するというのは難しいと感じることもあるでしょう。相手は不動産のプロですし、真っ向から意見が衝突してしまう可能性もあります。万が一自分では対応しきれないと感じた場合は、弁護士など専門家に相談しましょう。家賃が値上げするしないにかかわらず、その後の生活にわだかまりを残すことなく解決したいところです。