個人事業主は賃貸審査が厳しい?理由と審査通過の対処法
法人と違い、個人事業主は賃貸審査の難易度が高いと言われています。とはいえ、決して賃貸審査に申し込めないわけではありません。では、個人事業主でも賃貸審査に通過するためにはどのような事前準備が必要なのでしょうか?今回は、個人事業主が賃貸審査に通りにくい理由や対処法、賃貸審査に必要な書類などについてまとめました。
個人事業主は賃貸契約の審査が難しい?その理由とは
個人事業主の賃貸審査が通りにくい理由として、収入が安定していない点を一番に挙げる人が多いと思います。もちろん間違いではありませんが、収入以外にも社会的信用や保証面、法律などのさまざまな理由が絡み合っているのが実情です。
まずは、個人事業主が賃貸審査に通りにくい理由を7つのポイントに分けて解説します。
理由①収入が不安定
個人事業主という事情は関係なく、賃貸審査には家賃の支払い能力が重視されます。一般的に賃貸契約を結ぶ際は収入面だけが審査の対象となりますが、個人事業主は所得と事業規模、事業歴などを総合的に判断して支払い能力をチェックされるのがポイントです。
仮に高収入であっても、社会的信用がやや低い個人事業主は収入が不安定と判断されやすく、賃貸審査が難しくなります。もちろん、事業用の借り入れがある際には審査がさらに厳しくなると言えるでしょう。
理由②ほとんどの場合連帯保証人が必要である
近年では、連帯保証人をつけなくても保証会社へ登録することで賃貸審査をパスできるケースが増えています。保証会社は連帯保証人の代わりとなり、万が一家賃滞納が起きた場合でも適切に対処してくれるのが特徴です。
一方、事業用として物件を借りるには連帯保証人をつけなくてはならないケースがほとんどです。個人事業主でも、連帯保証人を頼める人がいれば多少審査で有利となります。ただ、連帯保証人がつけられない場合は審査が通りにくくなるでしょう。
理由③連帯保証人を含め必要書類が多い
後半で紹介しますが、個人事業主の場合は必要書類がとても多く、準備できたからと言って必ずしも審査に通るわけではありません。また、必要書類が増えるのは連帯保証人も同様です。本人確認書類のコピーや実印はもちろん、収入証明書のコピーや印鑑登録証明書などを用意しなくてはいけません。
万が一連帯保証人を見つけられたとしても、準備の段階からお願いすることが多く、万が一の責任を含め負担になることは間違いないでしょう。
理由④セキュリティ面が不安
個人事業主として部屋を借りる際、来客があるのか、また頻度はどれくらいなのかによって大家さんが契約を渋るケースもあります。というのも、物件内の出入りが増えればセキュリティ面で“入居者以外の人が出入りするのでは”などと不安が生じるからです。
賃貸審査の際は、来客の有無や頻度を聞かれることもあるでしょう。その際、人の出入りが多い事業なら審査が厳しくなります。
理由⑤貸主の税金負担が増える
賃貸物件を所有している大家さんは、固定資産税などの税金を納めなくてはいけません。これが居住用の場合は優遇措置が受けられ、家賃収入に関しても消費税が免除されます。
一方、事業用の場合は優遇措置が受けられず、大家さんの税負担が増えることになります。さらに、大家さんの収入が1,000万円を超えれば消費税も負担しなくてはなりません。このような面から、事業用として物件を貸し出すことを渋る大家さんは多く、SOHOや事業所利用が可能な物件が少ないのが現状です。
理由⑥建築基準法や消防法上で引っかかる
現行の建築基準法では、用途地域によって事業内容が定められています。賃貸物件を店舗や事務所として使用する際には、用途地域のルールに反する可能性もあります。もっとも、事業用ではなく居住用として建てた物件は法の基準に満たしていないことも多く、事業用として運用すれば法に抵触することもあるでしょう。
さらに、事業用の物件は消防法におけるルールもより厳しくなります。消防法の問題をクリアする場合は、防火責任者を立てたり消防計画書を作成したりと手間もかかるため、賃貸審査が厳しくなると言えます。
理由⑦退去トラブルの可能性
個人事業主の場合、事業内容によって物件の内装や設備を変更することもあるでしょう。しかし、退去時には原状回復義務が生じるため、実費で原状回復に務めなくてはなりません。この際、退去費用(修繕費用)が高額になることで入居者と大家さんが揉めることもよくあります。賃貸審査では、こうした退去トラブルを不安視する大家さんが多いのです。
(※内装や設備の変更は大家さんへ事前に許可を取る必要があります。)
住居用物件は事業用として使用できる?確認方法と違約金
まず、住居用として契約している物件では事業を行うことができません。契約書に書かれている「禁止または制限されている行為」や「特約」が明記されており、大家さんに許可なく事業用として使うと契約違反となります。
契約違反の場合、強制退去や最大6ヶ月の違約金が発生することもあるため、住居用物件を事業用として使用しないよう注意しましょう。
賃貸審査に落ちやすい個人事業主の特徴
次に紹介するのは、賃貸審査がより厳しくなる個人事業主の特徴についてです。下記の特徴に当てはまる場合は、後半で紹介する「個人事業主が賃貸審査に落ちた!どうすればいい?」を参考にしてください。
個人事業を始めて1年未満
家賃の支払い能力が重視される賃貸審査において、個人事業の実績は大きく影響します。特に、事業が軌道に乗っていない1年未満の個人事業主は審査で不利になりがちです。逆に、個人事業の実績が3年以上であれば審査の通過率も上がります。個人事業を始めて1年未満の場合は、2年目以降の契約を検討しましょう。
賃料と収入のバランスが悪い
所得(収入)と家賃のバランスが悪いと、支払い能力がないとみなされます。個人事業主の場合、目安家賃は所得の20〜25%。たとえば、年間所得が240〜300万円なら家賃5万円の物件が目安ですし、年間所得が480〜600万円なら家賃10万円の物件が目安です。目安家賃に対して年間所得が少ないと、支払い能力なしと判断されるため注意しましょう。
特に個人事業主の場合、年間所得から経費や個人事業税を差し引かなくてはなりません。収入に対して家賃の割合が約20〜25%だと審査の通過率も上がるため、物件選びの際は家賃を抑えることを念頭に置きましょう。
保証会社の審査に通らない
個人事業主が賃貸物件を契約する際、ほとんどのケースで連帯保証人が必要となるのは先述の通りです。連帯保証人が立てられない場合は保証会社を利用することも可能ですが、賃貸審査以前に保証会社の審査に通らないと契約することはできません。
また、審査に通過したとしても利用料として家賃の0.5〜1ヶ月分を支払う必要があるのか、連帯保証人と保証会社の療法を必要とするケースもあります。
確定申告をしていない
個人事業主の場合、確定申告をしていないとほぼ賃貸審査に通過できません。というのも、脱税の可能性が疑われるからです。個人事業主である以上、収入があれば確定申告をしなくてはなりません。
節税しすぎている
個人事業主の場合、必要以上に経費を計上して所得を圧縮したり、節税に努めて負担を軽くしたりすることもあるでしょう。しかし、収入に対してあまりにも所得が少ない場合は、支払い能力が十分ではないとみなされ審査に通りづらくなります。節税で収入面のメリットは得られても、賃貸審査においてはデメリットとなるでしょう。
個人事業主でも賃貸審査をクリアするポイント
個人事業主である以上、さまざまな面で賃貸審査が通過しにくいですが、方法によっては賃貸審査を通過できる可能性もあります。先ほど紹介した「賃貸審査に落ちやすい個人事業主の特徴」に当てはまらない人は、ぜひ参考にしてください。
預貯金と収入が十分であることを示す
家賃の支払い能力を認めてもらうには、収入はもちろん貯蓄が十分にあることを示すことがポイントです。貯蓄額が大きいと、大家さんから信頼が得られやすく、開業から日が浅くても賃貸審査に通る可能性が高くなります。
審査の際には、確定申告書や納税証明書、所得証明書、口座通帳の提出が必要となるでしょう。
周辺住民に迷惑がかからないことを説明する
事業内容によっては、人の出入りが多いなどでセキュリティに問題が生じたり、周辺住民とトラブルが起きたりすることも想定されます。こうした理由から事業用として賃貸契約を渋る大家さんが多いのが実情です。
もしもセキュリティ面や周辺住民に迷惑がかからない事業であるなら、その旨をきちんと説明することが大切です。
SOHOや事務所として利用できる物件を選ぶ
手っ取り早い話ですが、事務所として利用可能な物件を絞って探すのも有効です。特に「SOHO可」と記載がある物件なら、事業用ではなく居住用として契約することもできるため、ハードルが低いと言えるでしょう。
(※ただし、SOHO可の物件でも事業メインとして使用する場合や、人の出入りが多い事業の場合は断られる可能性があります。)
また、将来的に法人化する可能性があるなら登記できる物件を探すこともポイントです。事業用物件でも登記できないと、法人化にともない退去しなくてはなりません。
審査が通りやすい保証会社を選ぶ
保証会社を利用する際は、難易度の低いところで審査をしてもらうことがおすすめです。特に、信用情報や他社での滞納歴を調査しない“独立系”の保証会社なら、個人信用情報に傷があっても審査に通過できる可能性があります。
不動産会社の信頼を得る
後ろ盾のない状況だからこそ、不動産会社にサポートしてもらうことがおすすめです。入居審査に関することや事業内容など、正直に伝えた上で部屋探しをしてくれるなら部屋が借りられる可能性もゼロではありません。
不動産会社は強力な味方になります。信頼を得るためにも真摯な態度で臨みましょう。
個人事業主が賃貸審査に落ちた!どうすればいい?
万が一賃貸審査に通らなくても、賃貸物件の利用にこだわらなければ事業を続けること、開業することはできます。
レンタルオフィスを借りる
レンタルオフィスは事業所のみを貸し出してくれるため、その住所で開業届を出すことができます。法人登記ができる可能性もあり、将来的に法人成りをする人にもメリットがあるでしょう。
また、レンタルオフィスでは業務に必要な設備が揃っています。デスクやキャビネット、インターネット回線も整備されているため、本格的な事務所を構えたり諸設備を整えたりする必要もありません。
月々のコストは高めですが、個室の広さやサービス内容によって料金が変わるため、比較検討する必要はあるでしょう。
バーチャルオフィスを借りる
バーチャルオフィスなら事業に必要な“住所”を貸し出してくれるため、郵便物を預かってもらったり、固定電話の番号を借りられたり、法人登記ができたりとさまざまなメリットがあります。事業所にこだわらない人、在宅で仕事をする人におすすめです。
月々数千円で利用できるのも個人事業主に嬉しいポイントと言えるでしょう。
コワーキングスペースやシェアスペースを利用する
コワーキングスペースやシェアスペース(シェアオフィス)は、一つのフロアを複数の企業や個人事業主が共有し利用できます。事業所というよりは仕事できるスペースが欲しい人、また個室は不要と考えている人におすすめします。
住所として利用できなかったり、法人登記できなかったりとそれなりのデメリットもありますが、都内主要部でも格安で利用できるのはなによりのメリットでしょう。
個人事業主の賃貸審査で準備しておく必要書類
個人事業主の賃貸契約には、さまざまな必要書類が求められます。これは連帯保証人に対しても同様です。賃貸審査にはどんな必要書類を用意しなくてはならないのか、下記の表を参考にしてください。
契約者の必要書類・持ち物 | 連帯保証人の必要書類・持ち物 |
本人確認書類 3期分の確定申告書 昨年度の課税証明書 預金通帳の写し 事業内容が分かるもの 現住所の住民票 印鑑登録証明書 印鑑(認印か実印) 通帳と銀行印 | 本人確認書類のコピー 実印 印鑑登録証明書 収入証明書のコピー ほか |
個人事業主でも賃貸審査が通る可能性はゼロではない
個人事業主は賃貸審査に通りにくいものの、収入や貯蓄、事業内容や実績によって契約できる可能性もあります。不動産会社を味方につければ賃貸審査もスムーズに進むため、事情を説明しておくと安心です。
また、大家さんの許可なしに事業を始めたり、開業届を出したりすると強制退去や違約金が発生する可能性があります。事業を始める際は、契約内容をよく確認しましょう。