生活保護受給者が家賃を滞納するとやばい?リスクや対処法とは
生活保護受給者は約202万人(2023年4月時点)と言われており、日本人口の約60人に1人が生活保護の申請に通っていることがわかっています。そんななかで、生活保護を受給していても生活が困窮している人も少なくないはず。特に、生活費の大半を占める家賃の支払いが苦しく、滞納してしまうケースも珍しくありません。しかし、生活保護受給者が家賃を滞納すると、非受給者に比べてリスクが高い側面もあります。そこで今回は、生活保護を受給している人が家賃を滞納するとどんなリスクがあるのか?対処法とともにご紹介します。
生活保護受給者が家賃を滞納したら家賃が二重に!
生活保護の中には、家賃を補助するための住宅扶助が含まれています。住宅扶助は、ほかの生活保護の金額(生活扶助、教育扶助、医療扶助など)とともにひと月分が現金一括で支払われます。それだけに、住宅扶助分の金額を把握せずに使い込んでしまい、家賃を滞納する受給者も少なくないのです。
そして、住宅扶助を家賃以外に使用することは生活保護の趣旨に反するため、生活保護を受けていない人よりもリスクが大きくなります。
具体的に説明すると、家賃を滞納すると生活保護の中の住宅扶助分を福祉事務所に返還する必要があります。もちろん、滞納した家賃は貸主(大家さん)に支払わなくてはなりません。結果、家賃を二重に支払わなくてはならなくなります。
強制退去?財産差し押さえ?家賃滞納後の流れ
生活保護を受給しているから多少は見逃してもらえるのでは?…なんて思っている人は多くないでしょうが、家賃を滞納すれば当然貸主から家賃を催促されます。催促に応じなければ、連帯保証人や家賃保証会社に連絡がいくでしょう。
それでも滞納が3〜6ヶ月続いた場合は、賃貸借契約が解除され、法的な措置を取った後に強制退去となります。強制退去となる前に、財産の差し押さえや遅延損害金が発生することもあるでしょう。滞納した金額が膨れ上がれば、いくら連帯保証人や家賃保証会社がついていても“今後の支払い能力がない”とみなされるので注意が必要です。
★家賃滞納による遅延損害金は、契約で特に定められていなければ利率3%/年となります。膨れ上がれば上がるほど、負担額は増える一方です。
仮に強制退去となった場合も、家賃の支払い義務はなくなるわけではありません。加えて、新居への引っ越しする際も保証会社の入居審査に落ちる可能性があります。生活保護を受給していても、家賃滞納後の流れは非受給者と変わらないことを覚えておきましょう。
そして、どうしても家賃が支払えない場合でも対処法がまったくないわけではありません。ことが大きくなる前に、できる限りの対処法で家賃滞納のリスクを減らしましょう。
生活保護受給者が家賃を滞納する前にできる対処法
やむを得ない事情があり、生活保護を受給していながら家賃が支払えなくなることもあるでしょう。この場合、家賃が支払えないとわかった時点で事前に対処することが大切です。
大家さんや管理会社に連絡する
家賃の支払いが遅れそうな場合は、はじめに大家さんや管理会社に連絡を取って相談しましょう。分割払いなどの交渉や相談の余地はあります。そして、事前連絡をせず大家さんや管理会社から家賃を催促されても、無視をせずにきちんと事情を話すことがポイントです。大家さんや管理会社は敵ではありません。一人で抱え込まないようにしましょう。
お金を借りる
家賃分のお金が工面できない場合は、親族などの周囲の人、また金融機関にお金を借りて支払うことも考えましょう。個人間でのお金の貸し借りはトラブルになりがちなので難しい事情もあるかもしれませんが、返済方法などを書面に残しておくと相手に安心感を与えられます。家賃1ヶ月分程度であれば、ダメ元でも助けてくれる場合があるかもしれません。
住宅確保給付金制度を利用する
お金が借りられずどうしようもない場合でも、住宅確保給付金制度を利用する方法があります。これは、生活困窮者自立支援法に基づく制度の一つで、下記の条件に当てはまる場合に利用できます。
①主たる生計維持者が下記のいずれかの状況にあること
- 離職・廃業後2年以内であること
- 個人の責任・都合によらず給与等を得る機会が、離職・廃業と同程度まで減少していること
②直近の月の世帯収入合計額が、市町村民税の均等割が非課税となる額の1/12(基準額)と家賃(上限あり)の合計額を超えていないこと
③現在の世帯の預貯金合計額が各市町村で定める額(基準額の6月分、ただし100万円を超えない額)を超えていないこと
上記は生計維持者の収入や資産状況に関する条件ですが、生活保護受給者の場合はこの限りではありません(※東京23区の場合)
住宅確保給付金は、駐車場や共益費を除く家賃のみが対象となります。住宅扶助の限度額は各自治体や世帯人数によって変動するため、詳しくは各自治体のホームページを確認しましょう。
そして、住宅確保給付金が給付されるのは原則3ヶ月です。延長を繰り返すことで最大12ヶ月の給付が可能ですが、これには給付を受けていても貯蓄を切り崩さなくてはならない状況であることが条件です。また、給付金は生活保護受給者に直接支払われるのではなく、大家さんや管理会社に自治体から直接支払われるものなので、誤解のないよう注意しましょう。
住宅確保給付金の相談は、最寄りの自立相談支援機関で受け付けています。詳しくは厚労省のホームページをご覧ください。
事前に代理納付制度を申し込むのもおすすめ
生活保護を一括受給することで住宅扶助分を使い込んでしまいがちな場合、また生活保護のやりくりが困難な場合は、滞納を未然に防ぐ意味でも代理納付制度を利用するのがおすすめです。
代理納付制度とは、福祉事業所が生活保護受給者に代わって家賃を支払う制度。大家さんにとっては家賃滞納のリスクを防ぐことができ、入居者にとっても家賃滞納で住まいを失うリスクをふせぐことができるため、生活保護法のもと福祉事務所による住宅扶助の代理納付が原則化されています。
★ちなみに、代理納付の対象は家賃だけではなく共益費も含まれています
代理納付制度は、生活保護受給者の希望で申し込むことが可能です。また、生活保護受給者本人の同意がなくても、大家さん側がケースワーカーに相談した上で代理納付制度を申請することもできます。
ただし、代理納付制度は生活保護受給者の家賃滞納を防ぐための制度であり、これまで滞納した家賃を代わりに支払う制度ではありません。あくまで、現金で支給される住宅扶助を直接大家さんに支払ってもらうための制度であることを理解しておきましょう。
生活が苦しくなる前に自治体へ相談を
生活保護で住宅扶助を受給していても、生活状況により支払いが困難になる場面はあるでしょう。そんなときは、自治体の窓口に相談することをおすすめします。そして、家賃が支払えないとわかった時点で事前に大家さんや管理会社に相談すると、その後の支払い方法について検討してもらえる可能性があります。黙って滞納したままにすると支払額が膨れ上がり、最悪強制退去になることもあるため注意が必要です。生活が苦しくなる前に、自治体へ相談しましょう。