住宅弱者とは?問題を解決する住宅セーフティネット制度や賃貸契約する上での有効手段

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 社会が抱える問題のなかには、少子高齢化や増加するシングルマザー、外国籍や障がい者との共生が含まれます。こうした現状の先に存在するのが、住宅の確保が難しい住宅弱者問題です。そこで今回は、住宅弱者が賃貸契約をするうえで有効な手段や、公的支援制度の住宅セーフティネット制度について解説します。

住宅弱者とは?賃貸契約が制限される原因

 社会問題となっている住宅弱者とは、年齢や国籍、経済力、社会的立場などにより賃貸入居を断られる人を指します。具体的には、高齢者・外国籍・LGBTQ・生活保護利用者・シングルマザー・障がい者などです。特に、全世帯の28.8%が65歳以上の単独世帯と言われている少子高齢化社会、賃貸物件の提供に難色を示すオーナーも多く住宅問題はますます深刻となります。

※2021年実施の国民生活基礎調査より

住宅弱者の賃貸契約が難しい理由

 個人間で交わす賃貸契約では、貸主(オーナー)が入居希望者に対し物件を貸すかどうかを自由に決めることができます。住宅弱者の賃貸契約が難しいのは、入居希望者が抱える問題(=経済状況・トラブル・事故など)に対して貸主が不安を感じるからです。

貸主のリスクが大きい

 住宅弱者が抱える問題は貸主にとってのリスクになります。たとえば、在日外国人なら国籍がないこと、生活保護利用者や障がい者なら近隣住民とのトラブルやコミュニケーション上の問題が懸念されること、高齢者なら孤独死、シングルマザーなら経済的理由による家賃滞納のリスクです。とはいえ、国内の人口率が減る一方で空室率が上昇しているため、住宅弱者側もオーナー側も不安を抱えているのが現状です。

貸主や不動産会社の理解が不足している

 残念ながら、貸主や不動産会社の誤った認識や思い込みで入居を断られるケースも珍しくありません。生活保護利用者は家賃が払えないのではないか?LGBTQの人は他の入居者とうまくやれないのではないか?…このような思い込みが住宅弱者を増やしているのも問題です。

★貸主や不動産会社ではなく保証会社が入居を断るケースもあります。仮に住宅弱者に理解のある貸主であっても、保証会社が支払い能力なしと判断すれば賃貸契約を結ぶことができません。

今後公営住宅の増加は見込めない

 もともと公営住宅は住宅弱者の住まいを確保する役割を持っていました。しかし、現代では人口が減り財政難となっていることから今後公営住宅の増加が見込めないとされています。住宅弱者への住まいの提供は、公営から民間へ委ねられることになるでしょう。

誰にでも住宅弱者になる可能性はある

 住宅弱者のなかには「トラブルが多そう」「生活保護利用者とは契約できない」など心無い対応をされた人がたくさんいます。しかし、忘れてはならないのが誰しも住宅弱者になる可能性があるということです。災害で被災者になったり、仕事をやめてフリーランスとなったり、離婚してシングルマザーやシングルファザーとなったり…なにより、誰もがいつかは年を取って高齢者になります。今は自分に関係なくても、住宅弱者問題に直面する可能性があることを知っておきましょう。

住宅弱者が賃貸契約するうえで有効な手段とは

 住宅弱者のジャンルによって異なりますが、賃貸契約を希望するならオーナーや不動産会社に向けた“信用”を示すことがポイントです。

高齢者・障がい者・生活保護利用者・在日外国人の場合

 高齢者や障がい者、生活保護受給者は信頼できる人が近くにいることをアピールすると良いでしょう。家族や親族がいなくても、地域の居住支援法人やソーシャルワーカーの協力が得られれば、オーナーや不動産会社の抱える不安を軽減することができます。在日外国人の場合も、職場や学校の協力のもとで部屋探しすることをおすすめします。

LGBTQの場合

 ニュースでもジェンダー問題が多く取り沙汰されるなか、大手企業ではSDGsやサステイナビリティの観点からLGBTQへの理解・対応が進んでいます。不動産会社のなかには、申込書から性別を記入する欄を削除したところもあるほどです。LGBTQの人は、全国展開しているような大手の不動産会社に相談することをおすすめします。

住宅弱者に向き合う公的支援制度「住宅セーフティネット制度」

 公営住宅の増加は見込めず、已然として住宅弱者を取り巻く環境は厳しくなっていますが、同時に民間の空室や空き家が増加傾向にあるのも問題視されています。そこで2017年10月にスタートしたのが住宅セーフティネット制度です。

 住宅セーフティネット制度は、次の3つを柱として成り立っているのが特徴です。

  • 住宅確保要配慮者の入居者を拒まない賃貸住宅の登録制度
  • 登録住宅の回収や入居者への経済的な支援
  • 住宅確保要配慮者に対する居住支援

 ここでいう「住宅確保要配慮者」は、いわゆる住宅弱者のこと。月収15万8,000円以下の低額所得者、18歳未満の子どもがいる子育て世帯、被災者、高齢者、障がい者などです。各自治体によって制度の対象者が追加されることもあるため、自分が住んでいる地域の対象者をチェックしておくと良いでしょう。

 では、住宅セーフティネット制度の3つの柱についてくわしく解説しましょう。

住宅確保要配慮者の入居者を拒まない賃貸住宅の登録制度

 住宅セーフティネット制度に登録する物件は、借りたい人の入居を断らないのが前提です。住宅弱者側の「入居を断られるかもしれない」という不安を軽くしています。加えて、登録できる物件は耐震性や居住面積など一定の基準を満たす必要があるため、入居に不安を覚えて希望条件を下げなくても、快適性にすぐれた物件に住めるのは大きなメリットと言えるでしょう。

 ちなみに大家さんサイドは、入居を受け入れる住宅確保要配慮者の範囲を決めることができるため、無条件ですべての住宅弱者を受け入れる必要はありません。登録物件は「セーフティネット住宅 情報提供システム」で閲覧することができるため、条件を絞り込んだうえで入居可能な物件を探してみると良いでしょう。

登録住宅の改修や入居者への経済的な支援

 住宅セーフティネット制度には、住宅確保要配慮者の専用物件にする際の改修費用、また入居者への経済的支援があります。なかでも入居者への支援は「家賃低廉化補助制度」と呼ばれ、国と自治体から最大4万円支給されるのが特徴です。仮に家賃5万円の物件に住めば、国と自治体から2万円ずつ補助されるため、入居者が負担する家賃は1万円となります。

 住宅弱者が賃貸契約の審査に通りにくい大きな理由は、経済的なリスクやトラブルです。その点、住宅セーフティネット制度による経済的支援は入居者だけではなく大家さんにもメリットがあるため、入居を拒む理由もなくなります。

住宅確保要配慮者に対する居住支援

 これまで住宅弱者への居住支援は福祉関係者がおこなっていましたが、住宅セーフティネット制度では、居住支援法人や居住支援協議会も居住支援を行っており、住宅弱者と大家さんの両方をサポートしています。住宅弱者に対しての居住支援には、住まいに関する相談や家賃債務保証、健康相談、財産管理などがあります。

 一方、居住支援は都道府県に指定された居住支援法人が対応するため、サービス内容や費用は地域によって異なるのも特徴です。たとえば京都市の場合、定期的な見守りや緊急時の対応を無料または月額1,500円で利用できます。加えて、サービスを利用するには一定の条件も設けられているので利用を検討する前に確認しましょう。

※市民税が非課税の人は無料、課税の人は月額1,500円

住宅弱者でも賃貸物件契約を支援する制度はきちんとある

 住宅弱者のなかには、これまで入居審査に通らなかったり賃貸契約を断られたりした人も少なくないでしょう。とはいえ、誰にでも住宅弱者になる可能性はあり、少子高齢化が加速するにつれて無視できない問題となります。今では、住宅弱者を支援する住宅セーフティネット制度があるほか、多様化に理解のある不動産会社も増えているため、今まさに住宅弱者となっている人もまずは相談してみてはいかがでしょうか。

元・不動産メディア営業/現・不動産系ライター
岸山 海河 10本
有名不動産メディアSの創刊に関わり、地元〜大手不動産会社の物件広告を担当。2014年より不動産系ライターとして活動しています。引っ越し経験も多く、現在は片田舎に建てたマイホームに在住。部屋探しのワクワク感は今でも大好き!これまでの経験を生かしながら、沢山の人の「暮らし」に寄り添う記事を提供します。 資格:普通自動車、日本化粧品検定1級
元・不動産メディア営業/現・不動産系ライター
岸山 海河 10本
有名不動産メディアSの創刊に関わり、地元〜大手不動産会社の物件広告を担当。2014年より不動産系ライターとして活動しています。引っ越し経験も多く、現在は片田舎に建てたマイホームに在住。部屋探しのワクワク感は今でも大好き!これまでの経験を生かしながら、沢山の人の「暮らし」に寄り添う記事を提供します。 資格:普通自動車、日本化粧品検定1級

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