借家人賠償責任補償と個人賠償責任補償の役割とその違い
賃貸物件に入居する場合、さまざまな保険に加入することになりますが、もっともポピュラーなものといえば「火災保険」でしょう。最近は地震に関する特約をつけるかどうか聞かれることも多いはずです。
みなさんは、火災保険に付帯している「借家人賠償責任補償」について聞いたことがあるでしょうか。よく分からないまま契約している方もいるかもしれませんが、賃貸物件に住む際は重要な保険です。今回は、借家人賠償責任補償とよく似た役割を果たす個人賠償責任補償と併せてご紹介します。
借家人賠償責任補償とは何か
借家人賠償責任補償とは、ひと言で説明すると、「大家さんに対して発生した損害賠償責任の補償」です。後述する個人賠償責任補償との違いとして、「大家さんに対して」という部分がポイントになります。
大前提として、賃貸物件の借主は、大家さんに対して以下の3つの責任を負っています。
・原状回復義務
原状回復義務とは、退去時に物件を借りる前の状態に戻して返還する義務です。ただ、長年住んでいると経年劣化などを起こすケースもあるため、借主の故意や過失によって生じた部分を原状回復して返還することになります。詳しい内容は、国土交通省がまとめている原状回復に関するガイドラインをご確認ください。
・不法行為責任
賃貸物件は、あくまで大家さんの持ち物を借りているため、通常の民法などの法律も適用されます。その代表が不法行為責任を規定した民法709条です。
民法709条には以下の通り記載されています。
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。 |
つまり、借主の故意または過失によって、他人(大家さん)の所有物である物件を侵害した場合は、損害賠償責任を負うと読み替えることができます。
・債務不履行責任
最後は、民法415条に規定されている債務不履行責任です。民法415条には以下の通り記載されています。
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行することができなくなったときも、同様とする。 |
借主が大家さんに対して負っている義務はいくつかありますが、代表的なものといえば「期日に家賃を支払う義務」でしょう。もしその義務を怠り、家賃を滞納してしまった場合、大家さんはそれによって生じた損害を借主に請求できるというものです。不法行為責任と同時に発生することもあります。
借主は、大家さんに対して以上の責任を負っていますが、大家さんからすると請求できても実際にお金を回収できなければ意味がありません。そこで、借家人賠償責任補償という賃貸補償を設定するケースが多いのです。
個人賠償責任補償とは何か
個人賠償責任補償とは、賃貸物件にかかわらず、日常生活において生じたトラブルに対して利用する補償です。例えば、「誰かを傷つけてしまった」「他人の物を壊してしまった」時などに使用するケースが多いです。これらの際に生じる損害賠償を、個人賠償責任補償によって支払うということになります。
個人賠償責任補償は、日常生活におけるトラブルの補償です。ただし、補償の対象となるのは過失によって上記トラブルが引き起こされた場合のみです。故意によって人を傷つけたり、物を壊した場合は対象外となるため注意してください。
また、個人賠償責任補償は「他人から借りたもの」に対しての損害賠償責任には利用できません。賃貸物件の場合、大家さんの所有物である部屋を貸してもらっているため、部屋に備え付けられている物を壊しても個人賠償責任補償は活用できません。
個人賠償責任補償は、火災保険や自動車保険といった他の保険に付帯する形で契約する場合がほとんどです。補償内容にもよりますが、月々の金額も安いため、一度加入を検討してみても良いかもしれません。
両者の違いについて
借家人賠償責任補償と個人賠償責任補償の最大の違いは、「大家さんに対する補償」なのか、「他人に対する補償なのか」という点にあります。大家さんも他人ではありますが、前述の通り「借りた物」に対しては個人賠償責任補償は適用されません。両者の適用について以下の2つのケースを考えてみましょう。
1.寝たばこによって賃貸物件で火事を起こし、隣家に延焼した。
寝たばこによる家事は、「重大な過失」が認められるため、隣家の炎症については個人賠償責任補償を利用して損害を賠償することになります。一方、自宅の火事に関しては、借家人賠償責任補償を利用して大家さんへの損害を賠償する必要があります。
2.洗濯機の排水の故障によって階下に水漏れを起こしてしまった。
上記と同様、階下への損害賠償については個人賠償責任補償を利用することになります。また、自宅の床が水で濡れたことによる損害賠償は、借家人賠償責任補償を利用します。
このように、借家人賠償責任補償と個人賠償責任補償は全く異なるものですが、同時に使用することも少なくありません。賃貸物件に関するリスクを回避するためにも、両方に加入するのがおすすめです。
修理費用補償との違い
借家人賠償責任補償と混同しがちなもののひとつに「修理費用補償」があります。修理費用補償とは、賃貸物件のドアや窓ガラスなどを修理した際の修理費用の補償に使用されます。
借家人賠償責任補償との違いは、大家さんから損害賠償請求されない(=自分に非はない)が、法律上借主に修理費用を支払う義務がある場合に使用されるという点です。
例えば、空き巣被害にあい、ドアや窓ガラスを壊された場合、借主には非はありません。ここでは、借家人賠償責任補償ではなく、修理費用補償から修理費用が支払われます。
よくある質問
借家人賠償責任補償や個人賠償責任補償については、入居者から質問が出ることも少なくありません。そこで、よくある質問についての回答をご用意しました。
個人賠償責任補償を契約していれば、借家人賠償責任補償は必要ないのか
個人賠償責任補償や借家人賠償責任補償についてしっかりと理解していない方からは、個人賠償責任補償さえ契約していれば、借家人賠償責任補償は必要ないのか、という質問を受けることがあります。
前述の通り、個人賠償責任補償は「他人から借りた物」には適用されません。そのため、自分が借りて住んでいる賃貸物件に対して損害賠償責任を負った場合でも、個人賠償責任補償の対象にはなりません。
万が一のときに備えるのであれば、火災保険に両方を付帯するのがおすすめです。
大家さんの火災保険で十分ではないのか?
賃貸物件では、大家さんが別途火災保険に加入していることも珍しくありません。そのため、大家さんの火災保険で十分なのではないかと思う方もいるでしょう。ただ、入居者に責任があった場合、入居者の保険を利用して損害賠償責任を果たすのと、被害者である大家さんの保険を利用するのでは意味が大きく異なります。
最悪のケースでは、大家さんに保険金を支払った保険会社が、本来過失責任を負っている借主に損害賠償請求をしてくることも考えられます。借家人賠償責任補償に加入しておければ、借主に過失があった場合でも保険内で支払われるため、多額の請求をされることはありません。安心して暮らすためには、借家人賠償責任補償や個人賠償責任補償に加入しておくのが良いでしょう。
まとめ
借家人賠償責任補償や個人賠償責任補償は、賃貸物件で安心して生活する際には欠かせない保険のひとつです。火災保険に付帯することができるので、新しい物件に入居する際はぜひご検討ください。