見守り付き賃貸とは?高齢者の住宅問題を解決する取り組みについて解説
2024年2月、国交省は社会福祉法人等による見守り機能を付けた居住サポート住宅を創設すると発表しました。いわゆる「見守り付き賃貸」です。国が見守り付き賃貸を支援することで、今後どのようなメリットが生まれるのでしょうか?高齢者を取り巻く社会問題から見守り付き賃貸の概要について詳しく解説します。
高齢者を取り巻く住宅問題
2021年に内閣府が行った調査によると、一人暮らしをしている高齢者は約15%であることがわかりました。今は配偶者や子どもと一緒に生活していても、配偶者に先立たれたり、子供が自立することで誰でも一人暮らしになる可能性はあります。
しかし、高齢者の一人暮らしにはさまざまなリスクがつきものです。たとえば病気や怪我、認知症の発見が遅れたり、社会的に孤立したり、生活費の負担が増えたり、孤独を感じたり…とさまざまな不安があるでしょう。
加えて、高齢者が賃貸物件を契約するのは簡単なことではありません。株式会社R25が65歳以上の賃貸住宅探しを経験した人に行った調査によると、全体の26.8%が入居を断られた経験があります。大家さんの立場を考えても、安心して物件を貸し出せる環境が整わない以上、収入面や年齢などを理由に入居を断るのも無理はないでしょう。
より高齢化社会に進んで行くわけですから、国や自治体も、高齢者の抱える住宅問題をそのままにしておくわけにはいきません。
住宅セーフティネット制度の限界
今の日本は高齢者や低所得者、障害者などの「住宅確保要配慮者」に対する支援として「住宅セーフティネット法」が整備されており、入居を拒まない賃貸住宅の登録制度を利用することができます。
しかし、この制度に登録している物件数は約89万9000戸(2023年3月末時点)に対し、住宅セーフティネット制度の補助金が交付された要配慮者専用住宅は約5,300戸しかありません。2030年には、概算で単身高齢者の約300万世帯が賃貸住宅に住む可能性があると言われています。なにより「住宅確保要配慮者」は高齢者だけではないため、圧倒的に登録件数が足りないのは明らかでしょう。
国交省は、居住サポート住宅(見守り付き賃貸)の創設とともに住宅セーフティネット法改正案を通常国会に提出する予定です。今後、高齢者を取り巻く住宅問題も少しずつ改善されることが期待できます。
国が支援する「見守り付き賃貸」とは?
見守り付き賃貸は、社会福祉法人などによる見守りや安否確認サービスがついた住宅のことです。対象となるのは高齢者以外にも、生活困窮者やひとり親、刑務所の出所者らなどが含まれています。
これまで、生活面の支障や家賃の支払い、死亡時の対処を懸念して大家さんが部屋を貸し出さないケースがありました。一方、今回創設される見守り付き賃貸は入居後の支援も保障されており、人感センサーやICTを取り入れた安否確認や緊急時の対応もスムーズに行うことができます。これにより、大家さん自身も部屋を貸しやすくなるよう工夫します。
サービス付き高齢者住宅や有料老人ホーム以外の選択肢
これまでの高齢者支援といえば、サービス付き高齢者住宅や有料老人ホームなどが挙げられます。サービス付き高齢者住宅は高齢者を対象としたバリアフリー住宅で、レクリエーションなどが提供されているタイプもあれば、介護サービスが受けられるタイプもあり、要介護度が高くても安心して利用することが可能です。一方、有料老人ホームは厚労省が定める基準に則って運営されており、こちらも介護付きのタイプもあれば短期滞在型のタイプなどもあります。
今回、見守り付き賃貸が創設されることでサービス付き高齢者住宅や有料老人ホーム以外の選択肢が生まれるでしょう。見守り付き賃貸や住宅セーフティネット制度では、大家さんへの家賃補助により比較的安い家賃で生活することが可能であり、入居希望者も格段に増えることが予想されます。
国が認定する家賃保証会社も
これまで、家族がおらず身寄りのない高齢者の場合、本人以外の個人の緊急連絡先が登録できないことで、家賃債務保証会社との契約を結ぶことができず、入居できないケースがありました。そこで今回、入居契約にあたって住宅要配慮者でも利用しやすい家賃保証会社を国が認定する制度も設けられます。
認定された家賃保証会社は、本人以外の個人の緊急連絡先がなくても、社会福祉法人やNPO法人などを緊急連絡先として登録することができます。家賃保証会社との契約が結べるようになれば、大家さんにとっても安心して物件を貸し出せる環境が整うのです。
URでは見守りサービスのある高齢者向け賃貸住宅を提供
今回紹介した見守り付き賃貸以外にも、入居者への生活支援サービスがついた高齢者向け賃貸物件があります。それがUR賃貸住宅が提供する高齢者向け優良賃貸住宅です。
URの高齢者向け優良賃貸住宅は、高齢者が安心して暮らせるようバリアフリーなどの改良を施すと同時に、一定以下の所得者には家賃負担の軽減措置などを設けています。また、URのパートナー事業者や連携事業者による見守りサービスも展開されており、入居者の動きが一定時間確認できなかった際には登録先の連絡先へ電話やメールでお知らせする仕組みもあります。
全国的に数が限られているほか、入居は抽選になるので必ずしも入居できる保証はありませんが、高齢者向けの住まいとして支援や設備が整っているのは何よりの魅力です。
住まいの見守りサービスはどのように選ぶべき?
サービス付き高齢者住宅のように、見守りサービスが提供されている住宅はすでに存在していますが、施設やプランによって見守りサービスの内容が異なる場合もあります。では、具体的にどのような見守りサービスがあるのでしょうか。
まずは、セキュリティ会社などから多くでている接触型の見守りサービスです。緊急通報装置の付いたペンダントや押しボタン式の通報装置などが配布され、異常を確認すれば担当者が駆けつける仕組みになっています。ただ、異常が起きた場合でも高齢者自らが操作をしなければならないのが一つの懸念点と言えるでしょう。
次に紹介するのは、監視カメラやセンサー、電気やガスなどのスマートメーターを設置することによる非接触型の見守りサービスです。通常の生活パターンと違う状態が見られた場合、事前に設定した人へ連絡が行く仕組みになっています。高齢者自ら操作する必要はないものの、設備を導入するために初期費用がかかる点に注意が必要です。
最後は、定期的な訪問や電話で高齢者の安否確認を行う対面型の見守りサービスです。介護事業所などが行っているケースが多く、見守り対象者である高齢者と直接話せるのが安心できるポイント。生活状況のヒアリングにより、異常が起こる前に異常に気づける可能性もあります。その反面、ほかの見守りサービスより費用が高くなりがちで、訪問回数が少ないケースもあるので留意しておきたいポイントです。
見守り付き賃貸で高齢者が安心して暮らせる社会に
見守り付き賃貸や国認定の家賃保証会社について、正式な開始時期や今後の具体的な動きはまだ未定の段階です(2024年3月現在)。しかし、見守り付き賃貸が創設・普及することで高齢者の住宅確保もしやすくなり、大家さんにとっても貸し出しやすい状況になることが期待されます。引き続き動向を注目していきましょう。